京都大学総合研究推進本部

コラム

京大の「研究力」って、結局なんなの? ——研究力分析の現場から(第0回)

皆さんは「研究力」と聞いて、どんなイメージを持たれますか?

昨今、大学周辺ではこの言葉を聞かない日はないぐらいですよね。

「日本の研究力が低下している」
「大学の研究力を向上させるには」
……。

耳にタコができるほど聞かされた言葉かもしれません。

しかし、一体この「研究力」とは何なのでしょうか?

なぜ、それをわざわざ”分析”する必要があるのでしょうか?

今回、京都大学は「国際卓越研究大学」の認定候補に選ばれました。もし採択されれば、文字通り「国際的に卓越した研究力」を伸ばしていくことが求められます。これは、京大の構成員すべての未来に関わる大きな話です。だからこそ、今一度原点に立ち返り、「研究力とは何か」を皆さんと一緒に考えてみたいのです。

総合研究推進本部(KURA)で日々データと向き合っているURAとして、私たちが普段悩み、考えていることを、少しだけお話しさせてください。

「研究力」を測る定規はあるのか?

まず、直球の疑問から。「研究力」の定義とは何でしょうか。

結論から言えば、「これこそが研究力」という明確な定義は存在しません。定義の仕方、視点の置き方、分野ごとの特性……パラメータが多すぎて、一義的に決めつけるのは無理があります。

「えっ、そんな曖昧な言葉で議論しているの?」と思われたかもしれませんが、その通りなんです。そもそも学術研究とは、「既存の物差しでは測れないもの」を探し続ける営みです。それを単純な指標で測ろうとすること自体、ある種の矛盾を抱えています。

しかし、だからといって「研究力なんて測れないし、意味がない」と言い切れるでしょうか?

これもまた、違う気がしませんか。どんな分野でも、「あの研究はすごい」「あれで歴史が変わった」という肌感覚は共有されているはずです。「〇〇方程式」や「□□哲学」のように研究者の名が冠される成果や、「あの大学、今の勢いはすごいな」という現場の熱気。

つまり「研究力」とは、本質的には曖昧模糊としているけれど、その分野に携わる人間には確かに感じられる「実体のある熱量」のようなものではないでしょうか。

なぜ、あえて分析するのか

では、なぜその「熱量」を数値化しようとするのか。

かつては、専門家という「サロン」の中でお互いの凄さを理解し合っていれば十分でした。評価の基準は、専門家の経験と勘がすべてだった時代です。

しかし現在は、より広い社会への説明が求められています。特に、国家予算という皆様の税金をお預かりして研究を行う以上、また「国際卓越研究大学」として巨額の支援を受けるからには、「私たちはこれだけ卓越した研究を行っている」ということを、誰にでもわかる客観的な形で示さなければなりません。

「測りきれない凄さ」があることは百も承知の上で、それをどうにかして可視化し、社会へ伝えていく。

それが今の私たちに課せられた、難しくも重要なミッションなのです。

さらに言うと、我々の研究の凄さは我々自身が気づいていないのかもしれません。「熱量」を学術的分析で明らかにして言語化していくことを、これからの研究を進める上で常に念頭に置いておくことは、より高みを目指す上で大切なことにも思えます。

巨人の肩の上に立つ

そうは言っても、どこから手をつければいいのか。

多様な指標や可視化の方法がある中で、初回である今回は、多くの分野で比較的合意が得られやすい指標——「引用(Citation)」についてお話しして締めくくりたいと思います。

論文検索エンジン「Google Scholar」のトップページには、こんなスローガンがあるのをご存じでしょうか。

「巨人の肩の上に立つ(Stand on the shoulders of giants)」

検索して出てくる文献は、先人たちが築き上げてきた学術の「巨人」たちです。研究者はその肩の上に立つことで、未踏の地平を見渡し、さらにその先へと知を前進させることができます。

全くの白紙から生まれる研究はありません。必ず先人の業績(=巨人)を参照し、スタート地点を定める。「引用」とは、まさに学術研究の営みそのものだと思います。そして、ある研究者が発表した成果もまた「巨人」の一部となり、後に続く研究者たちがその肩に乗って研究を前に進めてくれること——

つまり、「引用される」ことこそが、その研究が卓越していた何よりの証拠になるはずです。

かつての中国で、優れた書物が評判となり紙の値段がつり上がった「洛陽の紙価を高からしむ」という故事のように、研究成果が多くの研究者の卓上に置かれる(PCにDLされる)ことは、今も昔も研究者の誉れではないでしょうか(デジタルなら紙の値段は上がらない、とのツッコミはご容赦ください)。

だからこそ、「どれだけ引用されたか」は、研究力を測る上で一つの重要な手がかりになり得ます。

では、具体的にどう分析するのか?

次回からは、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。

研究力分析担当

「分析の現場から」シリーズについて

「分析の現場から」シリーズは、総合研究推進本部の研究力分析担当者が、研究力分析の現場で用いられる具体的な指標を題材にしつつ、分析の現場でどのような点に悩み、立ち止まっているのかも含めてお伝えするシリーズです。

研究評価に用いられる指標を一つずつ取り上げながら、「研究力」をどう捉え、どう説明していくのかを考えるコラムシリーズとして、順次お届けしていく予定です。

最初に「皆さんと一緒に考えてみたい」と書きましたように、本コラムを読んで感じたことや、違和感があれば、ぜひ総合研究推進本部までお寄せください。

「うまく言葉にならないけれど気になる」といった段階でも構いません。

どうぞお考えをお聞かせください。